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 ご存じかもしれないが、多くの結婚披露宴にはプロの司会者というのがいて、事前に何度か打ち合わせがある。
 「おふたりの馴れ初めは?」とか、「お互いをなんと呼び合っていますか?」とか、そういう情報をあらかじめ整理しておくことで、当日、司会者がスムーズに新郎新婦紹介などを行えるようにする目的だ。
 ぼくたちの場合も、例外ではなかった。


「新郎さんは、新婦さんの第一印象はどんな感じでしたか?」
「ええっと、やさしい人だな、って思いました」

 ありきたりだが、本心だ。
 前も書いたが、ぼくは妻と初めて会ったとき「すごくやさしくて、すごいアホだな」と思った。「すごいアホ」の部分はちゃんと説明しないとニュアンスが伝わらないので、ここでは省いたが。

 「なるほどー。たしかに優しそうな新婦さんですもんね!」と言い、司会者は質問を続ける。

「では、逆に新婦さんは新郎さんの第一印象はどうでしたか?」

 おっ、そういえば、それはぼくも聞いたことがないぞ。けっこう気になるぞ。ちょっぴりドキドキしちゃうぞ。
 優しい人かな?おもしろい人かな?大穴で超絶イケメンかな?

 しかし、妻の答えはぼくと司会者の度肝を抜くものだった。

「うーん、闇がある人だなーって思いました」

 「……」と固まるぼくである。「……」と黙り込むプロの司会者である。
 「えっ!?あれっ!?間違っちゃった!?ヘンなこと言った!?」と、新郎とプロをフリーズさせたことにあわてふためく妻である。
 その様子を見て、ぼくが耐えきれなくなってワハハと笑った。

「いや、間違いとか正解とかじゃないけど、ヘンなことは言ってるよ」
「えっ、そう?」
「そんなん、結婚式で初めての人が聞いたら絶対引くでしょ」
「うーん、そう?そうかあ。そうかなあ。ダメ?」
「ダメだよ。逆になんでいけると思ったんだよ」

 そのやりとりに、困りかけていた司会者もフフフと笑う。

「そうですね、引くかどうかはわからないですけども、戸惑われる方もいらっしゃるかもしれませんね。もう少し、なにかありませんか?」

 うーん、と考えこむ妻である。いまいち納得していない顏の妻である。どうした妻よ。そんなにぼくの闇を世間にアピールしたいのか妻よ。

「いや、闇っていうか、なんかいろいろ抱えてるワケありっぽい人だなーって思って」

 あんまり変わってないぞ妻よ。ぜんぜんフォローになってないぞ妻よ。

「でも、だからこそ、この人ってやさしいんだろうなーって気がしたんです。いろんな人の気持ちがわかるっていうか」


 衝撃を受けた。そういう考え方があるのか。
 「闇がある」から「ダメなやつ」なのではなく、「闇がある」から「やさしい人」だなんて。

 初対面でぼく自身の闇をあっさり見抜かれていたことは悔しいが、それ以上に感動した。なんて素敵な考え方だろう。こんな風に言ってくれる人がいるならば、救われる人はどんなに多いだろう。この人を好きになってよかった。ぼくはこの人に救われてよかった。


 あの日、散り始めた夜桜の下で、ぼくは妻を「すごいアホでやさしいやつだな」と思い、妻はぼくを「闇があってやさしいやつだな」と思った。
 けなしてるんだかホメてるんだかわからないが、まあ、悪くない出逢いだったんじゃないかな、と思う。ちょっとひねくれてる感じが、ちょうどいいと思う。


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 もちろん、披露宴ご出席のみなさまの前で「すごいアホ」とか「闇がある」とか言うわけにはいかないので、本番では「新郎さまも新婦さまも、お互いの第一印象は『やさしい人』だったそうです!」という極めてありきたりな紹介になってしまったが、これはこれでいいのだと思う。
 その中身は、決してありきたりではない。ここで言う「やさしい」の本当の意味は、ぼくたちだけが知っていればいいのだ。