NHKアニメ『3月のライオン』第2シリーズ(2期)のOPテーマである、YUKI『フラッグを立てろ』が11/22(水)に発売された。
 さっそくiTunesで購入し、フルバージョンを聴く。もちろん、いい曲だなあ、と思ったわけだが……



『フラッグを立てろ』は、誰の歌なのか?

 誰の歌ってそりゃYUKIの歌なのだが、そういう話ではない。『3月のライオン』のどの登場人物に寄り添った歌なのか、ということだ。
 第1シリーズの後期OPテーマだった『さよならバイスタンダー』は、明確に主人公・桐山零の歌だった。ならば、同じYUKIが歌う『フラッグを立てろ』も、当然、登場人物の誰かをイメージした歌であるはず。
 まあ、順当に考えれば、そりゃ主人公の零でしょ、と思っていたわけだが……


「いじめ」

 第2シリーズ1話で初めてこの歌を聴いたときはわからなかった。2話、3話でもピンと来ていなかった。
 しかし、話数が進み、零の小学生時代の回想を経てひなちゃんの現在にスポットが当たり、第2シリーズの大きなテーマが提示されてくるにつれ、ぼくはようやく歌詞が示すものに気づいた。

"夕焼け雲が耳打ちした 「次は君の番だよ」って
 暇潰しのゲームに飽きたから どうせスケープゴートなんだろ"

 そうか、これは「いじめ」のことだったのか。
 夕焼け雲のごとく自分ではどうしようもないところで勝手に決まる、いじめの矛先。
 暇潰しのゲームと変わらぬ感覚で始まる、人を生贄にしたタチの悪い遊び。

 「佐倉ちほの番」が来て、「ひなちゃんの番」が来て。過去の零も、現在のひなちゃんも、スケープゴートにされて。
 これは、第2シリーズが描いている「いじめ」そのものだ。


「僕は僕の世界の王様」

"僕は僕の世界の王様だ 水の上も走れるんだ"

 非常に印象的なフレーズ。
 ここは、いろんな解釈が考えられるし、いろんな解釈があっていいのだと思う。
 この表現に関しては、YUKI自身の公式コメントの中で言及がある。

"私は私の世界の王様になることにしました。 レコードを聴き、ジャケットを模写して、歌の世界に逃げ場所を作ったのです。
枯れた花を咲かせ、空を飛び、甘いお菓子の家に住み、自分だけの場所を歌に見つけるたびに小さな旗を立て、印をつけるのが唯一自分を救う方法でした。
上手になんて生きられなかった。"
出典:アニメ「3月のライオン」公式サイト - 音楽 http://3lion-anime.com/music/

 YUKI自身は、歌に自分の世界をつくった。
 零は、将棋に自分の世界をつくった。つくらざるを得なかった。
 そして、ひなちゃんは、上記ふたりとは少し色合いが違っていて、逃げ場所としてではなく、戦って自分の世界を勝ち取ろうとしている。


1番は「僕」、2番は「私」

 以降の歌詞も、劇中のストーリーや描写とシンクロする部分が多く、いろいろ考えを巡らせたくなる。
 なかでも、個人的に気になったのが一人称。1番は「僕」で、2番は「私」なのだ。
 ということは、やや単純かもしれないが、1番は零の視点、2番はひなちゃんの視点なのかもしれない。だとすると、1番の「立ち上がるんだボクサー」にも納得がいく。(第1シリーズの前期ED曲は『ファイター』。そこと対応させたと考えられる)
 ふたりの主要人物に順に焦点を当てつ、全編を通じてYUKI自身の想いが乗っかった歌詞になっている、と個人的には感じた。


「フラッグを立てろ」の意味

 ぼくは『3月のライオン』を「矛盾と葛藤の物語」だと思っている。
 漫画やアニメという文化は元来デフォルメの集合体であり、キャラクターの性格も「一貫性」や「単純化・記号化」が求められることが多いが、3月のライオンはその真逆を行く作品だ。登場人物全員が現実の人間と同等かそれ以上に矛盾し、葛藤し、進んだり戻ったり、善になったり悪になったりを繰り返す。
 そして、原作者の羽海野チカ先生は、そこをずっと大切に描写し続けているように思う。でなければ、香子との不倫や零への暴力をためらわない後藤が化粧品を持って奥さんの見舞いに行くシーンなんて生まれなかっただろう。
 通常のマンガの作法では絶対に許されない、矛盾の塊。でも、だからこそ後藤がリアルな人間として映る。いっそ魅力的にすら見えてしまう。

 零もひなちゃんも、ほかの登場人物全員も、それぞれ内面に矛盾と葛藤を抱えている。
 それを乗り越えるため、そしてその先に自分だけのゴールを見出すために、必要な指針、目標、あるいは勇気を持つこと。それが「フラッグを立てる」ということなのだと思う。いろんな解釈があるべきだと思うが、ぼくはそう解釈した。

 3月のライオン第2シリーズは、零とひなちゃんを中心に登場人物それぞれが自分なりのフラッグを立てようともがく物語であり、『フラッグを立てろ』はいわばその応援歌だ。零とひなちゃんと登場人物全員の歌であり、YUKIの歌だ。




 単純にYUKIファンだからということもあるが、いや、でもやっぱり、『フラッグを立てろ』は名曲だと思う。楽曲として、なにより『3月のライオン』主題歌として。

 フルバージョンをまだ聴いていない人は、ぜひ購入して聴いてみてほしい。