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出典:第六回湯涌ぼんぼり祭り 公式サイト
http://yuwaku.gr.jp/bonbori2016/

 2011年の春~秋にかけて放送され、人気を博した青春アニメ『花咲くいろは』
 その劇中で物語後半のキーとなったのが、湯乃鷺(ゆのさぎ)温泉街の「ぼんぼり祭り」である。


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出典:http://ihoku.jp/wp-content/uploads/2012/10/92ab8f92.jpg

 そして、この「ぼんぼり祭り」を現実で再現してしまおう!ということで始まったのが、『湯涌ぼんぼり祭り』
 湯乃鷺温泉のモデルとなった石川県金沢市の湯涌(ゆわく)温泉で2011年から開催され、2016年10月9日の開催でなんと通算6回目となった。
 しかも驚くべきことに来場者数は増加の一途をたどっており、公式発表によると、第1回(2011年)には約5,000人だったのが、第4回(2014年)には約12,000人、第5回(2015年)には約14,000人を記録している。
 きのう終わったばかりの第6回(2016年)は朝の天気が悪く影響が心配されたが、それでも北國新聞によると過去最高の約15,000人が訪れたらしい。


 いまの時代、アニメの聖地として劇中のイベントを再現しよう、という話自体は全国各地にある。
 しかし、アニメ放送から丸5年、2013年の劇場版からも丸3年以上経つのに存在感が増し続けているイベントなんてのは、正直ほかに例がない。
 しかも、場所は石川県。北陸新幹線が通ったとはいえ、東京や埼玉や京都といったアニメの聖地になりやすいほかの土地と比べると、アクセスがいいとは決して言えない。

 なのにどうして、こんなにいい形でお祭りが続いているのか。率直に言って、ちょっと異常である。


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出典:https://ja.wikipedia.org/wiki/花咲くいろは

 さて、ここまで書いておいてアレだが、じつは、ぼくは湯涌ぼんぼり祭りに行ったことがない。
 でも、花咲くいろはと石川県が大好きなので湯涌ぼんぼり祭りの情報は欠かさず集めまくっていて、ネットニュースやクチコミから行政の資料までつねにチェックしているというだいぶキモい奴である。 
 もちろん、Ustreamでの中継も必ず見ている。

 そんなぼくが見るに、『花咲くいろは』ファンのための聖地巡礼用イベントとして始まった湯涌ぼんぼり祭りは、回を経るごとに徐々に、しかし確実に変質してきている。
 だんだんと「アニメイベント」としての認識が薄まり、「地元のお祭り」として定着しつつあるのだ。
 このままいくと、10年どころか30年、50年と続く由緒正しいお祭りになってもぜんぜんおかしくないと思う。


 そんな、全国のご当地アニメを持つ自治体がお手本にしたくてしょうがないであろう、湯涌ぼんぼり祭り。
 なぜこんな、スゴいことが実現できているのか。そのポイントを、ぼくなりに整理して5つ紹介する。



1. そもそもアニメ制作会社の地元愛がスゴい。

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出典:https://ja.wikipedia.org/wiki/ピーエーワークス

 『花咲くいろは』を制作したのは、アニメファンなら誰もがご存じのP.A.WORKS(ピーエーワークス)
 富山県に本社を置き、花咲くいろは以外にも北陸地方を舞台にしたアニメを数多く制作している。


まっつね
アニメ・マンガ評論刊行会(販売:密林社)
2013-08-10


 P.A.WORKSは「背景のP.A.」とも称されるほど、すべての作品の風景描写が緻密で美しい。
 アニメ制作にあたっては、モデルとなる舞台を綿密に取材撮影し、地元住民も唸るほどの見事かつ自然な再現をあたりまえのように行っている。 

 実力のあるクリエーターたちが、自分たちの地元をみっちり取材撮影して作る。しかも、花咲くいろはは、P.A.WORKSにとって原案も含めた初の完全オリジナルアニメ。
 そりゃあ、そこに込められた情熱や地元愛は、ものすごいに決まっているのである。
 花咲くいろは劇場版も石川県だけ特別に先行公開されたくらい、P.A.WORKSは地元を大切にしている。


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出典:http://gajeanism.blog.jp/archives/36719770.html

 その地元愛は湯涌ぼんぼり祭りでも発揮され続けており、P.A.WORKSは告知ポスター用やグッズ用などに毎年新作イラストを提供し続けている。



2. 地元企業の協力がスゴい。

 湯涌ぼんぼり祭りは、毎年多くの協賛企業を集めている。開催に合わせて、特別なコラボを実施する企業も非常に多い。


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出典:http://www.circleksunkus.jp/cs/campaign/iroha201609/index.html

 たとえば、ファミリーマートサークルKサンクス。祭りが近づくと、北陸の一部店舗限定でオリジナル弁当や限定の『花咲くいろは』グッズを売り出すのがもはや恒例となっている。


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出典:http://www.hokutetsu.co.jp/tourism-bus/yuwaku-bonbori

 あとは、北陸鉄道のと鉄道といった地元の鉄道事業者。ラッピング車両を運行したり、特別乗車券を販売したり、さらには特別運行ダイヤや臨時シャトルバスまで用意したりと、かなり力を入れている。
 年によっては、バス事業者やレンタサイクル事業者とのコラボがあったことも。移動が大変な遠方からの来場者にとっては至れり尽くせりである。

 いずれの企業協力も、ちょっとお願いした程度ではとうてい実現できるレベルのものではなく、かなり本気度が高い。企業も本気で湯涌ぼんぼり祭りを成功させ続けようとしていることがよくわかる。



3. 自治体のバックアップがスゴい。

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出典:http://www4.city.kanazawa.lg.jp/data/open/cnt/3/4895/1/05keizai.pdf

 こちらは、金沢市が公開している2016年度の予算概要。
 「湯涌ぼんぼり祭り開催費」として、なんと4,000,000円が計上されている。
 開催費とは言うが、湯涌ぼんぼり祭りの主催は湯涌温泉観光協会。あくまで支援者でしかなく、しかもおカタい役所であるはずの金沢市がそれだけのお金を出して誘客促進をしてくれるというのは、とてつもない厚遇っぷりである。金沢市が湯涌ぼんぼり祭りをかなり重要な観光資源としてとらえているか、市職員の有力者にとんでもない花咲くいろはファンがいたかのどっちかしか考えられない。 
 まあなんにせよ、金沢市としては400万出してもおつりが来るくらい有益なイベント、ということである。 

 また、お金とは別の話として、湯涌ぼんぼり祭りでは市長のあいさつも恒例となっている。
 「市長が公式に来てしゃべる」というのは市としての積極的な姿勢をもっとも端的に示す行為であり、それが地元にもたらす影響力は大きい。



4. 学校との親和性がスゴい。

 上述のように、アニメ制作側も地元企業も自治体も一体となって全力で取り組んでいるおかげか、湯涌ぼんぼり祭りは地元の学校とのパイプがかなり強い。


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出典:http://okureje.hatenablog.com/entry/2015/10/16/120523

 たとえば、祭りで使うぼんぼりの一部は、第1回から地元の小学校の児童たちがずーっと作っている。祭り自体が今年で6年目ということは、小1から小6までぼんぼりを作り続けた子どももいるということだ。
 そうなるともう、その子たちにとっては、湯涌ぼんぼり祭りはアニメうんぬんとはいっさい関係なく、学校生活のひとつの思い出である。もはや、物心ついたときからあたりまえに存在している行事である。


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出典:https://www.youtube.com/watch?v=RLO5wu3jqJ4

 また、地元の中学校・高校も、吹奏楽や和太鼓の演奏などで祭りに多く参加している。
 これもやはり何年も続くと、生徒たちにとってはアニメうんぬんとは関係なく、単純に、多くの人々に自分たちの演奏を聴いてもらう発表の場ということになってくる。

 学校教育に溶け込むことで、次世代を担う若者たちに「あたりまえにあるもの」として認識されるようになった、湯涌ぼんぼり祭り。これはなかなかよそにマネできることではない。



5. 湯涌温泉の魅力と実力がスゴい。

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出典:http://blog.livedoor.jp/kouhei14915/archives/52021928.html

 初年度から動きを追いかけているとわかるのだが、じつは、湯涌ぼんぼり祭りは毎年ちょっとずつ、『花咲くいろは』色を薄めてきている。
 グッズ販売の規模を縮小したり、声優トークショーみたいなイベントを前面に出さなくなったり、ステージで行われる演奏の曲目も一般楽曲の比率が高くなってきたり……まあ、放送終了から時が経てば経つほど、やれることがだんだん少なくなっていくのはある程度必然なのだが。 
 それなのに、祭りの来場者は増えるいっぽう。新しく訪れる人も多いし、リピーターの定着率もかなり高いようだ。


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出典:https://ja.wikipedia.org/wiki/湯涌温泉

 これはすなわち、湯涌温泉自体の魅力と実力がめちゃくちゃ高い、ということの証明である。
 おそらくもともと、観光地としての湯涌温泉に足りなかったのは「きっかけ」だけだった。
 それを花咲くいろはと湯涌ぼんぼり祭りによって得たことで、湯涌温泉のよさに気づく人がどんどん増えていったのだ。
 その結果、アニメが終わっても、劇場版が終わっても、花咲くいろは色が徐々に薄まっていっても、訪れる人は依然として多いままだ。これからもずっとそうかもしれない。

 いまの時代、アニメの聖地巡礼パワーで「とりあえず集客する」ことはそんなに難しくないが、そこからリピーターを獲得していくのには、地元の魅力・実力が絶対に問われる。

 作品のヒットで集客力を生み出した、花咲くいろは。花咲くいろはファンを湯涌ファンに変えるだけの魅力と実力を持っていた、湯涌温泉。
 両者がそろったからこそ、湯涌ぼんぼり祭りは「アニメイベント」から「地元のお祭り」に変化していったと言えるだろう。




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出典:https://ja.wikipedia.org/wiki/兼六園

 石川県は、もともと観光都市としての見どころにあふれているまちだ。
 まずはそれらのついででもいいので、ぜひ湯涌温泉にも足を伸ばしてみてはいかがだろうか。

 きのうの第6回(2016年)の市長あいさつでは、「来年も再来年もぼんぼり祭りをやる」との力強い宣言があった。おそらく、その先も長く続いていくことになるだろう。
 湯涌ぼんぼり祭りが、花咲くいろはファンに愛され続けつつ、地元の祭りとしても完全に定着する日は、意外と遠くないのかもしれない。