2016年7月13日のTBSラジオ『火曜JUNK 爆笑問題カーボーイ』は、オープニングトークが故・永六輔氏の話題だった。

 太田光(以下太田さん)の著書『マボロシの鳥』を影絵作家・藤城清治氏が絵本化した際、永氏が太田さんに「藤城さんはわれわれの偉大な憧れ。そんな方に、絵本向きじゃないあんな文章をそのまま絵本化させるなんて、なんてことをしてくれたんだ!」と怒ったという。しかし、太田さんは「あれは藤城さんがそうしたいって言うからそうなったんですー。ざまあみろ!」と経緯を説明。永氏はたいへん悔しがった……という爆笑問題らしい愉快なエピソードをまじえながら、永氏との思い出がいくつもいくつも、寂しくも明るく、ふたりの口から語られた。


 ただ、この日の放送でぼくの印象にもっとも残ったのは、番組冒頭、「僕にとって永さんや談志師匠やハマコーさんは親父の代わりみたいなところがあった」というところから始まった、太田さんと父親との「最期の会話」の話だった


 父親と決して仲が悪かったわけではないが、あまり話す機会のなかった太田さん。お互いいい歳になってしまって、いまさら何を話したらいいのかわからない、というのもあったのかもしれない。
 そんな太田さんにとって、テレビや芸能という世界を通じ、年齢を超えて好き勝手に言いたいことを言い合える永氏らの存在は、まさにある意味で父親代わりだったのだろう。

「僕は父親との最期の会話が、『お前、俺のこと嫌いだろ?』でしたからね」

 いささか衝撃的なこの発言から、太田さんは、病室でかわした父親との最期の会話を振り返り始める。

「いちばん最期にかわした会話は、『光、ごめんな』でしたから。『お前、俺のこと嫌いだろ?』って」
「俺、びっくりしたんですから。『えっ、嫌いだと思ってたの?』って。そしたら、『だって、何も話さねぇしさ。お前の金でこんな病室までさ、個室で高いだろ?お前には迷惑しかかけてねぇし、何もしてやれなかったし……』って」
「で、俺もそこで『……いや、そんなことないよ』くらいのことしか言えなくて。『学校出してくれたしさ、世話になったよ』って」
「でも、そう言ったとき、親父はすごい嬉しそうな顔してね。『そっかぁ、嫌いじゃなかったか、俺のこと。お前にしてやったか、俺』って」
「そんとき、ああ、俺はなんて親不孝だったんだ、って思った」

 父親とのエピソードはここで終わり、話はこのあと、永氏とはお別れの前にたくさん話せてよかった、という内容に続いていく。



 言ってしまえば、これはさほど特別なエピソードではないのかもしれない。
 父と息子という男同士の関係の場合、思春期・反抗期あたりを境になんとなく会話が少なくなって、その後もなんとなく会話しないまま、というのはわりとよくある。

 しかし、だからこそ。
 特別ではない、誰にでも起こりうるエピソードだからこそ、心に刺さる。
 奇抜かつ奇特であり続けようとする芸人・太田光がしみじみと口にした、ふつうの息子としての、「親孝行できなかった」というふつうの後悔。

 太田さんが語るからこそ衝撃と感動があり、リスナーが「自分はどうだろう」と考えずにはいられなくなる、すばらしいオープニングトークだったと思う。
 個人的には、間違いなく今年のベストオープニングトークだ。朝の満員電車で聴きながら、そっと目を閉じ、2回、3回とリピート再生してしまった。

 あなたは、どうですか。父親と話、してますか?




 『爆笑問題カーボーイ』は、TBSラジオ系列で毎週火曜深夜25:00-27:00放送。
 今回のように考えさせられる深い回もあれば、2時間ずっと笑いっぱなしの回も多い最高のラジオ番組なので、ぜひradikoでも録音でもいいから聴いてみてほしい。