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 日本にiPhoneが初上陸したのは2008年、「iPhone3G」の発売だった。
 翌2009年に、「iPhone3GS」が発売。ぼくが初めて買ったiPhoneがこれだ。

 そのころ、日本でのiPhoneのシェアはまだ低かった。
 「なんかすごいらしいぜ」くらいの話題にはなっていたが、「え?iPhoneって赤外線ついてないの?ダメじゃん」などと言う否定派のほうが多かった。実際、赤外線はともかくとして、当時のiPhoneは機能・性能的に未熟な点もたくさんあった。

 そんな日本におけるiPhone黎明期。
 iPhoneユーザーたちは好奇の目と不便の多い仕様に耐え、「これを使いこなしてる俺たちは最高にオシャレなんだ!」と自らに言い聞かせることでプライドを保っていたわけだが、その時代に広く愛されたゲームアプリがある。


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 『TRAVATAR(トラバター)』。
 トラベル+アバターでトラバター。その名の通り、アバターが旅をするアプリだ。
 いちおうゲームだが、コミュニケーションツールとしての側面も強い。

 遊び方は、最初に自分のアバターを設定し、iPhoneを持って外を歩くだけ。
 すると、同じくトラバターを遊んでいる人とすれ違ったとき、それぞれのアバターが自動的に交換される。
 つまり、自分のアバターはすれ違った相手の部屋に移動し、相手のアバターが自分の部屋にやってくるのだ。
 アバターは各プレイヤーがあらかじめ設定した外見やセリフを持っているので、個性もさまざまだ。「埼玉のウサ太郎です。お世話になります」と丁寧にあいさつするウサギもいれば、「おう、遠くに連れてってくれや」とふんぞり返るトラもいた。
 で、今度はそのアバターを連れて歩き、また誰かとすれ違って交換。また知らないアバターがやってきて、しばし一緒に過ごし、また旅立つ。これを延々と繰り返す。
 
 そのあいだ、自分が作ったアバターも、日本中、ときには世界中のプレイヤーにどんどん交換され、遠くに行っている。
 自分のアバターが何回交換され、どういうルートで旅をしているかの軌跡は、つねに記録され、いつでも見ることができる。ぼくの初めて作ったアバターは一週間くらいでトルコまで行っていてびっくりした記憶がある。

 この「自分の分身が気ままに旅をする」「世界中の人と交流できるかもしれない」というオシャレ感、そして「iPhoneユーザー同士だけが楽しめるゲーム」という特別感は、iPhoneユーザーにめちゃくちゃウケた。また、当時はGPS機能を活用したゲームが珍しかったから、単純に目新しく、おもしろかったというのも大きい。
 残念ながら2011年末にサービスは終了してしまったが、トラバターは大きなブームを巻き起こしてくれたゲームだった。

 ちなみに、サービス終了にはいろいろな事情があったのだろうが、ゲームとしてのおもしろさ、という観点から言っても、2011年の終了は極めて妥当だった。
 2011年ごろになると国内のiPhoneシェアは格段に高まり、iPhoneユーザーを見つけることはなんら難しくなくなった。iPhoneを持つことが「ふつう」になってしまったのだ。
 「限られたiPhoneユーザーだけの楽しみ」「たまに仲間が見つかってすれ違える喜び」というのが快感の拠りどころだったトラバターにとって、特別感がなくなることはけっこう、いや、かなり痛かった。
 そういう意味では、黎明期だからこそ意味があったし流行った、特殊な立ち位置のゲームアプリだったと言えるかもしれない。

 もし身近に「いまはみんなあたりまえにiPhoneだけどさ、俺が初めて買ったころは……」なんて昔語りをする人がいたら、「あ、じゃあトラバターとかやってました?」と聞いてみてほしい。
 おそらく高確率で、「ああー、やったやった!懐かしい!よく知ってるね!」と感心されるはずだ。
 もしかしたら、それでさらに昔語りがヒートアップしてしまうかもしれないけれど。



TRAVATAR 公式サイト(2011年12月16日 サービス終了)
http://travatar.1pac.jp/