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 1994年。小4の兄が、母に頼み込んで「ファイナルファンタジー6」を買ってもらってきた。小1になりたてのぼくは、兄がそれを無我夢中でプレイするさまを、斜め後ろで指をくわえて眺めていた。

 1997年の「ファイナルファンタジー7」も、1999年の「ファイナルファンタジー8」も、やはり兄が母に頼み込んで買ってもらった。そのころにはぼくもRPGのストーリーを理解できる年齢になっていたので、兄がほかの遊びをしたり友達の家に行ったりしているスキを狙って、ちまちまとプレイするようになった。

 そして、2000年の初夏。「ファイナルファンタジー9」の発売日が目前に迫り、ぼくはおこづかいで買った週刊ファミ通の特集記事を何度も読み返して胸をおどらせていた。
 発売日になれば、また兄が母に頼み込んで、ソフトを買ってきてくれる。スキを見つけて、ぼくもやるぞ。
 兄に優先権がある都合上、プレイ時間は限られるが、学校でのゲーム友達との会話には乗り遅れないようにしたい。目指すは早解きだ。そのために、メモリーカードの空き容量もあらかじめ作っておいたし、ファミ通で序盤のストーリーや仲間の情報も予習した。ふむふむ、スタイナーとサラマンダーってやつが強そうだな。クイナとフライヤっていうのは……うーん、弱そうだ。最初は育てなくてもいいかも。

 発売日の前日。ぼくははやる気持ちを抑えきれず、兄にこう質問した。
「あした、何時ごろ買いに行くん?」
 ところが、ここで兄の口から発せられた言葉は意外なものであった。
「は?何を?」
 何を、じゃないよ。FF9に決まってるだろ。朝イチか?朝イチに行ってくれるんだろ?
「FF9?買わんけど」
 な、ななな、なんだって!?いま、なんて言った!?
「買わんよ。やらんもん」
 脳天に衝撃と絶望の雷が落ちた。サンダー、いや、サンダガくらいの雷が落ちた。
 
 このとき、兄は高1。家からそこそこ遠い、都会の私立高校に電車で通うようになっていた。都会に出て新たな趣味を見つけたのか、単に気分が乗らなかっただけかは知らないが、兄はFF8を最後に「FF離れ」をしてしまっていたのである。
 思わぬ展開に途方に暮れるぼく。だが、冷静に考え、すぐに立て直した。
「兄がやらないってことは、ぼくひとりで独占できるってことじゃないか!」
 ぼくはすぐさま、昔の兄よろしく、母に「どうしても買ってほしいゲームがあるんだ!」と直談判した。ぼくがそのように頼み込むのはほぼ初めてだったので、幸い、この上申はあっさり母に受理された。

 兄に気を遣わなくていいし、「いまからやるから代われ。リセット押すぞ」といきなり言われる心配もない、初めてのFF。ぼくのハマり具合がそれまでのFFとは比にならなかったことは、言うまでもない。
 
 ぼくはときに居間の大きなテレビで、ときに自室の6インチしかないラテカセで、FF9をプレイし続けた。ラテカセは祖父からもらった1980年製のものだったので、FF9の高精細なグラフィックを味わうには物足りないにもほどがあるはずなのだが、当時のぼくはまったく気にしていなかった。なんなら、いまでもぼくの脳内に浮かぶFF9の映像は、これ以上なく美しい。
 カタカタ回るぼくより年上の扇風機、日が落ちかけていっそう元気を増したニイニイゼミの鳴き声、「もうすぐご飯よ-!」と台所から叫ぶ母の声。それに「はーい!すぐ行く!」と答えながら、アレクサンドリア城下町で何度も何度もなわとびを繰り返すぼく。
 
 15年が経ったいまも、夏休みの時期になるたびに、ぼくは中1の自分と、あの城下町の硬くも温かい石畳を思い出す。